東京の感染者数を5週間ぶん予測した (7月6日版)

※ 7月13日版を公開しました knoa.hatenablog.com


東京の感染者数を5週間ぶん予測するのをやめた (3月24日版) あと、しばらく様子をうかがっていましたが、再開を試みます。

今回の予測

(更新: 部分拡大グラフを追加しました。数値に変更はありません)

1日8万人とか、そんなことある? という感想は、わたしも抱いています。1ヶ月後に笑い話になっていれば、謹んで辱めを受けたいと思います。しかしワクチンの減衰や自然免疫の程度など、どの条件をいじっても、7月末から8月上旬ごろに6-8万くらいのピークが来てしまいました。もっとも、3-4月にかけて増えていたBA.2のピークはもっと大きくなると悲観的な予測をして外していますから、今回も未知の要因を考慮し損ねていたり、既知の要因を過大・過小評価している可能性はあります。

なお、いちおう都は検査数について「最大約29万件/日の体制を確保」と謳っているようですが、これまでも都が事前の目標を達成したことはないので、おそらく1日8万人の感染者はとても検査できないでしょう。


なんでそんなに増えるわけ?

BA.5の感染力が8割、人流増加による感染拡大の下支えが2割と言ったところです。ワクチン効果の減衰は確かにありますが、今も追加で接種する人がいるので、都民全体の集団免疫力が急落しているわけではありません。また、東京以外でも、島根のようにBA.5が持ち込まれれば、どの地域でも同様の感染爆発は避けられません。

下記散布図の●黄色い点に注目してください。BA.5の前週比は、かなりバラツキがあるものの、「横軸BA.2の前週比が1.0倍なら、縦軸BA.5の前週比は2.0-3.0倍になる」という関係が見てとれます。目下のところ、東京をはじめとした多くの地域でBA.2の前週比は0.8-1.0倍(■赤領域)と推定されるので、このまま環境が変わらなければ、BA.5は毎週1.5-3.0倍くらいの勢いで増えていくはずです。

ワクチンは急には大量接種できないので、BA.5の急増を食い止めるのは人流と自然免疫です。しかし、いまの世情的に緊急事態宣言はおろか、まん防さえ、少なくとも予防的なタイミングで実施されることはないように思います。感染拡大に伴って「自然と」外出を自粛する力は働きますが、あくまで後追いなので予防的な効果はありません。最後に頼りになるのが自然免疫ですが、当たり前ですが、これは感染してこそ得られる免疫です。

現時点でBA.5を減らしている貴重な先行事例のポルトガルは、東京より少ない1000万の人口に対して昨年末から28週連続で毎週5万人以上、期間の累計で400万人という感染者を出しているため、少なくとも自然免疫の面で東京とはまったく条件が異なります。


重症や死者数は?

ワクチンの効果は感染→発症→入院→重症→死亡と重くなるものほど効果が持続するので、特に重症についてはかなり抑えられるのではないかと期待しています。ただ死亡については、特に高齢者ほど、感染者の絶対数が増えると必然的に増えてしまうので、年初に比べて少なくなるとは限らないでしょう。また、入院に対してもワクチンが効果を保ってくれているはずですが、少なくともイギリスでは直近で入院率が上がっているという報告があり、感染者数の分母も大きく増えることを想定すれば、実質的な満床飽和(東京では4000床くらい?)は避けられないように思います。

個人的には「今後は、医療崩壊さえ避けられるなら、行動制限に頼らなくてもよい」と考えてきましたが、実現可能性は別にして、ピークをやわらげるために7月中に短期間の行動制限が必要だと感じています。(長期間にしないのは、感染力が強いので結局は自然免疫による全員感染に頼らざるをえず、行動制限は永遠には続けられないと考えるためです)

また、「たとえインフルエンザ程度だとしても、都民が全員寝込んだら社会が止まる問題」が、1-2月以上に問題になるでしょう。無症状なら働いてもらうくらいのことはやれなくもないでしょうが、そもそも都の感染者数として表に出てくる人数のうち無症状なのは全体の1割以下なので、焼け石に水です。鼻水程度なら働いてもらうのか、いくらか社会を止めるしかないのか、韓国や台湾に学ぶ必要があるかもしれません。


できることは?

3回目接種がまだの人は、いつか接種するつもりがあるなら、今がその時です。感染者数の上り坂から下りまで、全期間守ってもらえます。山頂や下り坂で接種するのは、本来めちゃくちゃもったいないことです。これは、ピークが1万人になろうが、8万人になろうが、同じことです。ピークより前に打つのです。

4回目が接種できる人も、同じ理屈で、今打つべきです。むしろ、これは政府にこそ言いたいのですが、接種サイクルの目先の効率性を大事にして「前回接種からきっちり5ヵ月待ってもらう」よりも、1ヵ月前倒ししてでも感染の上り坂で接種してもらった方が、個人のリスクとしても医療全体の負荷としても、圧倒的に効率的です。逆に、もし今後、幸運にもしばらく感染が落ち着く時期が来たならば、たとえ5ヶ月経ってワクチン効果が減衰してしまったとしても、次なる感染拡大の兆候が現れるまでは、6ヶ月だろうが7ヶ月だろうが待ってもらうべきです。そして、いざというときに短期間で大量に接種できる体制こそ、整えておくべきかと思います。


予測の条件など

考慮されている条件は基本的にはかつての予測と同じです。(詳細: 3週前の人流がデルタ株の増減と最も相関していたという解説)

  • 変異株ごとの前週比
  • 3週前の人流
  • 4週前の感染者数
  • ワクチン接種
  • 感染による自然免疫

今回はこれらに加えて

  • 入国者数(海外渡航歴のある感染者)

を考慮しています。ただし、国内の感染者数が少なく、入国分の影響が大きいときに限ります。

今回なぜ予測を再開できたかというと、

などの予測を難しくさせる時期を終えて、比較的安定した数週間のデータが得られたことと、

  • 海外の先行したBA.5データの蓄積

のおかげです。


他の予測など

ちょうど7月5日に感染者数の予測が3つ公開されていたので紹介しておきます。(敬称略)

(7月19日更新: 筑波大学 倉橋節也 氏による予測を追加。7月5日が公開日となっていますが、手続き上のミスなのか、掲載は7月11日だったと思われます)

※ 特に断りがない限り、感染者数はいずれも7日平均なので、祝日などによるブレがなければ感染ピークの1日単位の最大値はその1.2倍くらいになることが多いです。


あとがき

引き続き増田で書けなくもなかったのですが、グラフ描画などを実現していた方法が使えなくなったので、こちらにしました。

今後、以前のように毎週更新するかは、未定です。(ここに載せていないものも含む各種グラフは、毎日更新しています)