どうして、こんなに、減ってるの!?

(見出し太字赤字だけに目をすべらせても、だいたいわかるように書きました)


感染による免疫は、効果あり

過去にコロナに感染した人が「再感染」する確率は、もともと低いとされていましたが、韓国ではBA.5による感染が拡大して以降、再感染率が平均3%から6%へと上昇しています。これは確かにBA.5に既存の免疫が効きにくいことを示しています。しかしそれでも、韓国の感染経験者が7月末までに2000万人もいて、全人口5200万人のうち38%が再感染のサイコロを振り続けていることを考えれば、実際に再感染する確率自体は極めて低いと言えます。

仮にBA.5が過去の感染による免疫を完全に回避するなら、BA.5の再感染率は感染経験のある国民と同じ、38%になるはずです。でも現実には6%に抑えられている。つまり単純計算で過去の感染経験は、84%の対感染効果があるということです。

※ 無症状のために検査もしなかった隠れ感染者、つまり感染の補足率にかかわらず、この関係は成り立ちます。(その場合、「感染経験」ではなく「感染と判定された経験」となります)

※ 感染免疫の減衰、「1年前の感染経験なんてほとんど効果を失っている」といった視点では、むしろより一層この関係は成り立ちます。38%の感染経験者のうちたとえば19%が、既に免疫を失っていると考えてみましょう。すると、BA.5の再感染率は6%ではなく19%のほうに近づかなくてはなりません。そうした減衰の結果も含めて現実が6%になっているのです。

感染による免疫に高い効果があるというカタールの報告もあります。特に、デルタ以前の感染経験は(減衰か免疫回避かにかかわらず)BA.4/5の感染に対して28.3%しか効果がない一方で、オミクロン(BA.1/2)への感染経験はBA.4/5に対して79.7%も効果があるとされています。韓国の感染経験は2000万人のうち1900万人以上がオミクロンですから、上述の84%という単純計算ともよく整合すると言えます。


都民の20%が感染を経験している

40%に達する韓国ほどではありませんが、都民も相当感染しています。若い世代では30%、都民全体でも20%が感染済みで、その大半がオミクロンによる感染です。

※ BA.5による第7波は、これからの下り坂でさらに感染者が増えることに注意。

そしてこれは、あくまで検査して報告された感染者数なので、実際の感染者数はもっと多いと予想されます。東京都の8月の「無症状率」は10%未満なのに対して、全員を検査していた5月までの空港検疫では無症状が77%、検査免除の国が多くなった6月以降でさえ70%でした。また、ランダムに選ばれた家を訪問して毎月30万件レベルで統計をとっているイギリスでは、感染者のうち40%が無症状だと報告されています。もともとの対象集団も調査手法も異なるので単純比較はできませんが、少なくとも検査によって補足された以上に多くの感染者がいることは確かです。また、昨年夏の第5波以降、検査体制が逼迫するたびに検査漏れが多く発生していたことも考慮しなければなりません。


増えやすい変異株こそ、減りやすい

矛盾しているようですが、両立するのです。

デルタに感染した人が他の誰かに感染させるまでの平均時間(世代時間)は5日、オミクロンでは2日だと推定されています。これはつまり、

1人が平均1.2人に感染させるような(実効再生産数1.2)の状況では、100人の感染者が

  • デルタなら5日後に120人、7日後には129人に増える
  • オミクロンでは2日後に120人、7日後には189人に増える

逆に、1人が平均0.9人にしか感染させない状況であれば、100人の感染者が

  • デルタなら5日後に90人、7日後には86人に減る
  • オミクロンでは2日後に90人、7日後には69人に減る

ということです。

「毎週1.89倍に増えていたものが、どうして0.69倍にまで減ってしまうのか」と考えると非常に大きな力が働いたように見えますが、実は、人流に換算すれば1日平均12人と接触していた人が9人に減らすだけで、免疫であれば都民のうち25%が感染をはねのけるだけで、達成できてしまうのです。そして実際には人流も小幅ながら減っているし、感染による免疫だけでなくワクチンも追加接種されているわけです。

※ ワクチンの感染に対する効果は、本来は「ワクチンを接種したこともないし、自然感染したこともない」という集団を対照として比較しなければなりませんが、いまや多くの国でそのような人はほとんどおらず、イギリスでは成人の96%が一定以上の抗体を保持していて、「抗体を多少なりとも保持している」というレベルであればほぼ100%に達しています。よって、ワクチンの効果として発表される数字の多くが実質的に「自然感染の経験者」との比較になっていることに注意が必要です(「多少なりとも抗体を保持している」レベルとの識別は特に困難)。もちろん、結果的にそうした数字は「今、実際に接種することの効果」を測る上ではむしろ適切で、だからこそ対感染の効果よりも対入院・重症・死亡の効果が相対的に重視されるようになったわけです。

※ 実際には世代時間だけでなく、体内で増えるウイルス量や、免疫回避能力も変異株によって異なります。よって、世代時間が同じでもウイルス量が多い・免疫を回避する、「増えやすいし、減りにくい」という困った変異株が登場することもあります。


行動制限しなくても感染は収束する?

はい、します。

しかし、過去の行動制限に意味がなかったと考えるのは早計です。確かに今年初めの第6波でも、行動制限せずに放置していれば、今回の第7波と同じくらいの感染規模を許容するなら、やはり自然に収束していったものと思われます。しかしワクチンの3回目接種すらままならなかった状況で第7波並の感染規模を経験していれば、当時でさえ崩壊していた医療の現場がどうなっていたか、想像するのは恐ろしいことです。それを経験したのが同時期の韓国だったとも言えます。

逆に、第6波では1月末時点で3回目接種率が3.6%でしかなかったにもかかわらず、そして感染規模も第7波に比べればずっと小さかったにもかかわらず、2月に感染を減少に転じさせることができたのは、1月21日にまん延防止等重点措置によって行動制限したからこそだと言えます。

感染拡大と縮小の仕組みは、マスク着用など人間の行動の中身だけでなく、ワクチン、人流、変異株、そして減少局面では特に感染免疫という複数の要因が同時に関係していて、とても複雑です。これらの要因のうちいくつかを選んで「まったく関係ない」などとする人類の無力感を強調する言説も多く見られますが、あくまで「そう見える」だけです。特に今回の第7波で言えば、人流は行動制限ではなく感染増に伴う自然な減少だけ、ワクチンも主に高齢者の追加接種だけだったにもかかわらず、過去最多の感染免疫のおかげで、感染減少にこぎ着けることができました。(もっとも、この事実を人類の無力と捉えることはできます)

※ このほか、季節要因はインフルエンザの例からも冬に流行しやすいなどの影響が、また年末年始やお盆の人流を季節要因の一種とみなすこともできます。


これからのコロナ

過ぎたことですが、できることなら、ワクチンの4回目接種について前回接種からきっちり5ヵ月待ってもらうことなく、前倒しで接種を始めていれば、第7波の医療逼迫は、少なくとも現実より抑えられたものと思います。(入院病床の70%以上は、4回目接種の対象である60代以上が占めているのです)

しかし、幸か不幸か、日本も少しずつ感染による免疫を欧米並に獲得しつつあり、オミクロン対応のワクチンが間もなく手に入るようになることも合わせて、今後当面、医療崩壊の恐れはないものと期待しています。BA.2.75 (ケンタウロス) と BA.4.6 の感染力も相対的には弱く、そのほかに脅威となる変異株も見つかっていません。

欧米のようにマスクを外す生活をいち早く手に入れたいなら、医療崩壊だけは避けるレベルを見定めながら、むしろこれからもたくさん感染を経験した方がよいと言えます。イギリスでは、自主的な検査ではなく家庭訪問による検査の統計で、昨年8月からの1年間で国民の175%が感染していると見られます。これがある意味で欧米の原動力です。もちろん好き好んで自ら感染したい人はいないでしょうし、どんな感染も新たな変異株を誕生させるきっかけになることも忘れてはいけません。結局のところ、「正解のない、むずかしい問題だ」ということですね。

※ イギリスの統計基準は、週単位かつCt値が30以下。Ct値の平均推移から、デルタではおおむね全数とみなせるが、オミクロンではやや取りこぼしがある(感染者数はもっと多い)かもしれない。


追記: コメントで韓国や台湾との差についての疑問がいくつか寄せられました。まず、本記事ではなじみ深くデータも取りやすい「人流」という形で表現していますが、より具体的には「人と人の接触機会、ウイルスに触れる機会の総和」だと言えます。これは1日に平均して会う人数だけでなく、接触時間、接触距離、それこそマスクの有無やキス、ハグ、握手、声の大きさまで少しずつ影響すると思われます。それらが、オミクロン以降、わずか10%の差が2日後に1.1倍、7日後には1.4倍、28日後には3.8倍の差になるほど敏感に影響するのです。日本国内でさえ都道府県によって差がある以上、海外との生活習慣の差はずっと大きいでしょう。加えて、感染者数や医療逼迫の報道などに対する国民の心理的反応(行動自粛)の大きさや、時期による空気感や世論の変動、もちろんワクチンの種類や接種時期、感染による免疫も違うはずです。なので、国によって大きな差が生まれるのはある意味で当然だと言えます。