イギリスはどのように「コロナと共に」生きているのか

見出し太字赤字だけを流し読みしても、だいたい要点はつかめます。

(4月23日: 最後に後遺症についてのリンク集を追加しました)


イギリスの感染規模の推移を東京の人口に換算したものを、東京のものと縦軸を合わせて並べてみました。


イギリスの実態

イギリスでは、もはやほとんどの人は症状があっても検査していません。しかし、いわゆる●感染者数として発表される通常の検査とは別に、統計局による家庭訪問調査が長く行われていたために、●感染規模の実態はかなり正確に把握し続けることができていました。それに基づけば、過去最大のピークはオミクロンBA.2による1日15万人規模(東京の人口換算なので、文字通り東京なら1日15万人規模という意味)、最後の調査となった今年3月半ばの時点では1日5万人規模の感染状況だったと推計されています。(参考までに、韓国のピーク時は、推計ではなく実際に検査で陽性になった人数が東京換算で1日10万人規模でした)

しかし、イギリスはコロナ禍最初の拡大時とアルファによる第2波には大変な犠牲を払いましたが、ワクチン接種に加えて、累計で国民全員が3回ずつ感染するほどの圧倒的な免疫のおかげで、感染規模に対する医療の逼迫度合いは、●入院数を目安にすると東京に比べれば低く抑えられていると言えます。(●死亡は症状が重篤だった場合に加えて、高齢者の感染が増えると重篤性にかかわらず必然的に増えてしまう側面もあるので注意) もっとも、インフルエンザがコロナと同じ程度の規模で同時流行した今年1月には医療逼迫も報じられています。コロナ単体で見れば少しずつ入院規模も小さくなっているようにも見えますが、少なくとも当分は、一年中ずっとタチの悪いインフルエンザが流行しているくらいの感覚で共存していくのでしょう。

なお、入院率こそ減りつつありますが、オミクロン以降、ほとんどの人が検査しなくなった後になっても、味覚や嗅覚を除けば、コロナの各症状の発症率は変わっていません。むしろ、咳や喉の痛みは多くなっています


東京都の実態

他方、東京は「真の感染規模」を推計できる統計はないのですが、どれだけ大きく見積もっても、イギリスのように「発表の数十倍の感染者がいる」ことは考えにくいです。かと言って、「発表数がほぼ実態通りである」とも言えないでしょう

以下には、参考となる情報を列挙しておきます。

陽性率と発表感染者数の関係

陽性率と発表感染者数の関係を見ると、イギリスもアメリカも検査体制の整っていなかった●2020年の初期を除けば、おおむね●2022年のオミクロン以降、同じ陽性率(感染状況)でも検査人数が減っていくせいで発表される感染者数がどんどん減っていき、グラフが下へ傾いて行っています。対して東京のグラフはずっと同じ領域内を行ったり来たりしており、直近でわずかに残っているインフルエンザの影響を考慮してもなお、日本の「ちゃんと検査する率」は、率の数字はともかく、最初期を除けばコロナ禍を通じてあまり変化していないのではないかと推測できます。 下記は東京のグラフ

(4月26日追記: とは言え、検査する人が50分の1にまで減ってしまったイギリスでやっとこれだけの傾きになったのだと思えば、数分の1程度の減少ならグラフには現れにくい可能性はありますね。しかしそれでも、東京はむしろ過去の平均領域の中でも少し上の方に位置しているので、インフルエンザの影響を差し引いてもなお、やはり「ちゃんと検査する率」は、少なくとも大きくは変化していないのではないかと思います)

感染者数に対する入院数

いっぽう、●感染者数に対する●入院数の人数に着目すると、本来であれば感染やワクチンによる免疫力獲得と共に少しずつ改善されていくはずなのに、昨年末の第8波(BF.5)だけは感染規模に対して一転して多くなっていました。単純に考えると、第8波はそれ以前の波よりも「真の感染規模」が大きかった可能性が疑われます。これは、先ほどの陽性率との関係からの推測とは矛盾しますね。もっとも、オミクロン以降、感染者のうち、入院しやすい高齢者が占める割合が大局的に少しずつ多くなっているので、ある程度はそれで説明できるのかもしれません。もうひとつ、第8波の主力だったBF.5はほぼ日本でのみ流行した変異株なので、これがBA.5などよりわずかに病原性が強かった可能性も考えられます。(第8波については、死亡者数の増加についての考察はありますが、入院率についてはほとんど触れられていません)

抗体保有調査

また、過去の感染経験を示す抗N抗体保有調査が何度か行われていますが、イギリスの「今現在感染中かどうかを毎週大規模に検査する」調査とは違って、日本人の感染規模を推計するには十分な手がかりとは言えません。

時期 主体・対象者 累計発表感染者数との比較
2020年12月 4倍程度
2021年12月 兵庫県 2.6倍
2021年12月 同じ程度
2022年03月 同じ程度
2022年10月 広島県 0.7倍
2022年11月 献血 1.4倍
2022年12月 同じ程度
2023年03月 同じ程度

※ いずれも統計誤差は避けられないが、特に感染経験率の少なかった初期の調査ほど誤差は大きくなりやすい。
※ いずれも、感染しても抗体が作られなかった感染者や、抗体の減衰の影響があるので、「累計発表感染者数との比較」の値は、後期のものほど実際にはもっと大きい可能性がある。
献血者をを除いて調査対象者は無作為に選ばれているが「協力を承諾した」という偏りがあるので、特に初期ほど感染経験率が(おそらく)少ないほうに偏っている可能性がある。

後半の調査ほど、抗体保有者数と発表感染者数が一致していて、まるで「日本人はほぼ全員がちゃんと検査して感染者数として発表されている」かのように見えてしまいますが、抗体保有者数のほうが発表感染者数より少なかった広島県の調査が示唆するように、抗体の減衰の影響を大きく受けているものと思われます。たとえば、「全ての感染者が90日で抗体を失ってしまう」ような極端な条件では、最後の調査では「発表の5倍の感染者」が想定される計算になります。より正確に想定するには、抗体の減少率などを調べる必要があり、厚労省もどうやら最新2回分の調査でようやくそれを探ろうとしていた可能性もあるのですが、いまのところそのような分析発表はありません。もっとも、全ての感染者が90日で抗体を失ってしまうという極端な条件でさえ5倍に留まるのですから、これを上限としてもイギリスのような「発表の50倍の感染者」にはほど遠いと言えます。

無症状率

いっぽうで、倍率の下限の手がかりとしては、「無症状率」が使えるかもしれません。イギリスの調査から、真の無症状率はおおむね4割と想定できるのに対して、東京の調査では5-10%となっています。「症状があるのに検査しない人」がほとんどいないと仮定できるなら、無症状者で気付かなかったせいで検査しない感染者を逆算して加えると、「発表の1.6倍の感染者」が想定できます。実際には症状があっても検査しに来ない人もいるでしょうから、この倍率は下限と言えそうです


結局、東京の実態が発表の何倍なのか、ずばりの数字は分からないわけですが、最後にもう一度、冒頭のグラフを貼っておきます。


参考:

後遺症関連:(4月23日追加)


あとがき

これは個人的な観測範囲の印象でしかありませんが、欧米のYouTuberを見ていると、みんなめちゃくちゃ体調を崩してます。感染規模を見ればそりゃそうだろうとも思うわけですが、それが新しい日常なのでしょう。しかし「体調が悪いから今日の配信は休みます」程度の軽いものもあれば、最近でも39.4度の熱を出して検査で陽性になり「過去20年で最悪の日々を過ごした」とか、深刻な後遺症が数ヶ月も続いて緊急救命室に運ばれた例もあって、インフルエンザよりは、明らかに嫌な病気が増えちゃったよなぁとも思います。これから先、医療と変異株のイタチごっこが、人間優位で推移していくことを願っています。