第9波のこれまでと、これからの見通し

※ 12月30日、新しい記事を書きました。 knoa.hatenablog.com


見出し太字赤字だけを流し読みしても、だいたい要点はつかめます。

5月8日に書いた第9波の記事から3ヵ月が経ち、8月15日には高齢者ワクチンとXBB.1.16/EG.5.1について補足追記もしてありますが、改めてここでいったん中間報告しておきます。 knoa.hatenablog.com

変異株ごとの前週比で読み解く第9波

前週比そのものについての詳しい解説は前掲の5月8日の記事を読んでもらいたいですが、このグラフの要点は以下の通りです。

  • 新しい変異株が現れては、人流減や免疫獲得などによって前週比を下げていく
  • 感染全体の前週比()は、主流となる新しい変異株へとバトンタッチされていく
  • 第9波は、XBB系の前週比のゆるやかな下落に、途中からEG.5.1(通称: エリス)が加わって作られている

(2023だけ再掲) 前週比に着目すると、今後の中期的な変動は以下の要点にまとめることができます。

  • 個々の前週比の下落ペースは、もうしばらくゆるやかに下がり続けるでしょう。EG.5.1が存在しなければ、(台風とお盆の影響を別にしても)8月中には全体の前週比が1倍を切るはずだったと言えます。
  • 感染全体の前週比()は、XBB系からEG.5.1へとゆっくりバトンタッチされつつあり、第9波の収束を先延ばしにする要因となります。(なお、EG.5.1というのはXBB.1.9.2.5.1の別名なので、もともとはXBBの仲間です)
  • 9月20日には全年齢を対象としたワクチン接種が始まるので、その接種規模次第で、個々の前週比の下落が早まることが期待できます。
  • いっぽう秋から年末に向けては、毎年人流が増える傾向にあるので、こちらは前週比の上昇圧力となります。ただし、その人流増の理由が「たまたま3年連続して秋にいったん感染が落ち着いたため」だとすれば、今年の秋の感染状況の落ち着き度合い次第で、人流がそれほど増えない可能性もあります。

(2023だけ再掲) で、結局のところ具体的に感染者数の波はどうなるのよ?という話ですが、

  • 9月までは急増も急減もなくゆるやかな動きが続き
    (個々の前週比の下落とEG.5.1へのバトンタッチ上昇がせめぎあう)
  • 10月には全年齢ワクチンの効果で減少に向かうも
    (ただしワクチン接種がどれだけ進むかは読みにくい)
  • 年末にかけて減りきることなく再び増加に転じる
    (人流の伸びに加えて新しい変異株の登場もありうる)

といった流れになるとみています。大まかに言って、中規模な蔓延が続くでしょう。途中の「へこみ」が小さければ、年末にかけての大きなうねりを(第10波ではなく)第9波としてまとめて呼ぶことになるかもしれません。過去2年連続で、たまたま変異株とワクチンのタイミングが重なって「お盆明けを過ぎれば急減する」という体験をしましたが、今年は状況が違います。

(全体を再掲) 秋接種に向けて用意されたワクチンは2500万回分で、これはおおむね5月からの高齢者向けワクチンの実績と同じ規模です。グラフで言うところの「緑の山」は、昨年の秋冬に比べるとかなり小くなると言えますが、感染者の数だけで言うと若者が大半なので、秋接種の対象が主に若者になるなら、前週比を減らす効果は昨年と同じくらい期待できる可能性もあります。しかし、2500万回のうち実際にどれだけ接種されるのかは、今後の政府や自治体の取り組みによる部分も大きいでしょう。個人にとってのリスク対策だけでなく、社会全体としての「前週比を下げるには、感染するか、ワクチン打つしかないのよ」という世知辛い現実を、国民にわかってもらうのはなかなか難しいかもしれませんが。(マスクや人流減でも下がりますが、「マスクや人流減はいつまでも続けられない」というのもまた、いっぽうの現実だと思います。それと、マスク着用では前週比が例えば1.1から0.9へと一定の幅で「下がる」のであって、着用率100%を維持してもそのまま0.8, 0.7...などと「下がり続ける」わけではありませんし、逆に着用率ゼロを維持しても、前週比が「上がり続ける」わけでもありません。人流も同様で、人流50%を維持しても「下がり続ける」わけではありません。でも感染やワクチンなら、それこそインフルエンザと同様に、世知辛いですが年に一度など免疫を獲得し続けることができますね)

(全体を再掲) また、新しい変異株の登場の有無も大きな要因です。直近に現れたGK.1.1とHF.1は、国際データベースを参照する限り確かに感染力が高いようですが、今の段階での日本における前週比は統計区分上の乱れの可能性もあり、まだ評価できません。しかし、これまでの登場ペースを考えると、新しい変異株の登場は当然ありうると考えておくべきです。国内の変異株のデータ公開は、精度に不満はあるもののだいぶ整備されてきたので、今回のような前週比グラフによって、1-2ヵ月程度の中期的な見通しは今後とも立てていきやすいと思います。

いっぽう、人流の増減が感染状況とはほとんど連動しなくなったことと、台風などの突発的な影響の大きさもわかってきたこと、そして5類化以降、得られるデータが変わってきたことで、相対的に週単位の短期の予測はしにくくなっています。(そもそも短期予測への需要も減っているでしょう)

9月3日追記: この前週比のグラフは、下記の9月1日(金)の最新版では人流増減率も追加して、よりわかりやすくなっています。(そして、HF.1が「それほどでもなかった」ほか、GK.1.1は割合が5%に満たなくなったので、いったん外れました) グラフ自体は以下のURLで毎週金曜に掲載予定ですが、人流との関係についても含めた詳しい解説記事は、いずれまた書きたいと思います。
https://f.hatena.ne.jp/Knoa/COVID-19/


参考グラフ集

1日単位に直したモデルナ推計です。これは人によるかもしれませんが、祝日の影響で7日単位でデコボコしてしまうモデルナ発表の7日平均(折れ線)よりも、1日単位(棒)のグラフのほうが、私の目には見やすいです。海の日やお盆の後のへこみも、1日単位では不自然さがなくなります。


イギリスと日本を比較した4月の記事でも考察しましたが、陽性率と発表感染者数の関係からは、イギリスのように「陽性率は高いのに感染者数はあまり増えなくなっていく(グラフが下方向へ傾いていく)」という現象は今も起きていません。すなわち日本では5類化以降、第9波になってもなお、「ちゃんと検査しに来る人の割合」には大きな変化がないように見えます。(モデルナの感染者数の推計が陽性率を元にしている場合はこのグラフは無意味な逆算になりますが、モデルナは診断された患者の実数を元に推計しています)


2022年初からの推移を都道府県別に振り返ってみると、波のピークにはかなり大きな地域差があることがわかります。人流やワクチン接種率、感染免疫といった基本的要素だけでなく、新しい変異株がどれだけ早くに流入して広まるか、それがたまたま人流の多い時期に重なるかどうかといった運の要素も大きいので、注意が必要です。また、コロナは若者ほど感染率が高いので、同じ100万人あたりの人数でも、人口の世代構成が若いと数字は大きくなりやすいと言えます。


定点観測は最新の期間が8月14日(月)-20日(日)の7日間なので(9月2日更新: その翌週の期間も含めた最新グラフに差し替えてあります)、お盆の減少と明けてからの反動が混ざっています。また都道府県別の前週比は、沖縄から九州を北上した台風6号、関西を通過した台風7号、そしてお盆の影響が顕著に出ています。台風の突発的な影響の大きさについては、昨年も検証しています


(9月2日更新: 熊本県のデータが間違っていたので修正しました。前掲の各グラフも差し替えてあります。なお、私ではなく熊本県厚労省による間違いです)
たびたびニュースに出てくる「1医療機関あたりの報告数」を表す定点観測の値ですが、都道府県が定点に選ぶ病院の規模は基準もなくバラバラなので、5月8日までの公表値を元に計算すると、各県の定点値の重みには3倍を超える格差があります都道府県も、厚労省も、マスメディアも、専門家さえも、そのことを意識せずに一律の値として扱ったり、県同士を比較したりしていますが、空恐ろしくなります。

なお本記事では、5月7日までの最終4週の平均値を用いて、定点あたりの感染者数を定数化しています。


累計のワクチン接種回数は、高齢者の人口比率を考慮してもなお、沖縄だけ明らかに少なくなっています。その分を、感染による免疫で埋め合わせをしている状況です。また、同じ感染規模でも医療への負荷が高くなりやすいと言えます。


入院者数と医療の逼迫度合いは、都道府県ごとに人口補正しても入院基準や医療体制の格差が大きいので、東京都と沖縄県を取り出して考察していきます。

東京の第9波では、高齢者向けのワクチン接種が早期に進んだおかげなのか、はたまた5類になって入院基準が変わっただけなのか、ともあれ当初は入院者数がかなり少なめに推移してきましたが、8月に入ってからは感染規模に比べても急に増えてきました。医療逼迫の事実上の目安である入院4000の壁が、5類になった今も同じ水準で存在しているのかどうかわかりませんが、安心していられる状況ではなくなりつつあります。

いっぽう沖縄は第9波が収束しかけてはいるものの、ピーク時の医療崩壊の度合いが強烈だったことがわかります。第9波の感染者数に対しては入院者数が多すぎる気がするので、先の陽性率のグラフで触れた「ちゃんと検査しに来る人の割合」については、沖縄に限っては検査しない人が多かった可能性はあります。(検証したいところですが、モデルナの陽性率は全国値しかなく、沖縄だけのまとまった陽性率データはなさそうです)


ここで紹介したもののほか、各種最新のグラフはそれぞれ週に一度のペースで更新しています。
https://f.hatena.ne.jp/Knoa/COVID-19/


参考リンク集


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