東京の感染者数を5週間ぶん予測した (9月1日版)

※ 9月8日版を公開しました knoa.hatenablog.com


前回の予測

前回、8月25日の5週予測のうち、1週目の週平均は予測20725人→現実18801人となりました。このズレの要因のひとつは、他府県の誤計上が段階的に解消されていることによります。その一方で、誤計上ではないものの、「都外からの検体持ち込み」の比率が増えています。これは以前から東京都の感染者数に含まれてはいたのですが、7月にはほぼ1%未満だったものが8月には日によって9%にも達するなど、無視できない大きさになっているため、今回から統計上は誤計上と同様に扱うようにします。

予測日-7/18-7/25-8/01-8/08-8/15-8/22-8/29
7/0618569388906609375440
7/131506024500349023422826896
7/21 26693314523084918850 9508
7/28 31458284081913710648 6641
8/04 328082307915521 8387
8/11 249702288714588
8/18 2425515084
8/25 20725
現実 16216259273211631151263792474318801

(スマホなど小さな画面でご覧の方は、隠れてしまった表の中身を左右にスライドさせることができます)

人流の影響を3週前から2週前へ修正する前の、7/06の予測とはズレが大きくなっています。

8/16に最初の誤計上が発覚しましたが、7/21までは実質的に「都のみ」の推移を予測していたと言えます。8/11までは誤計上されたデータに基づいて、それを知らずに予測していたことになります。7月分の誤計上の修正値は8月末に発表されましたが、8月分の修正値は9月末に発表されるものと思われます。

8/04には繁華街人流の増加を受けて、8/11には帰省の大幅回復を受けて上方修正しています。

8/25には感染による免疫の係数を「発表の4倍」から「発表の3.5倍」に修正しました。


今回の予測

(注: 東京都の独特なデータ公開形式の都合で、週の区切りが火曜から翌週月曜までであることに注意してください。グラフ中の「-9/05」は「8/30(火)-9/05(月)」の7日間の週平均を指します)

今回の予測は、前回とほぼ同じで、誤計上が解消された分だけ少し下方向にスライドした形です。5週先の9/27(火)-10/03(月)には、人流増とシルバーウィークの影響によるリバウンドを予測していますが、5週も先である上に現在はお盆を挟んで直近の統計データが心もとないので、不安定です。

いま大きく減っている原因は、別途 どうして、こんなに、減ってるの!? という記事で解説しました。 knoa.hatenablog.com

夏休みの終わりを心配する声もあり、確かにオミクロンでは学校の長期休暇が感染抑制に効いているようには見えますが、その影響は感染減少を増加に転じさせるほどの力ではありません。減少速度のブレーキ要因のひとつになるだけでしょう。


BA.2.75 (ケンタウロス) と BA.4.6

前回の予測と同様で、当面、比率は増えても実数で増えることは考えにくいです。

中国で BF.15 という新しい変異株が広まっているようですが、既に日本でも空港検疫を含めて6月ごろから BF.15 として 2-3% ほど、特に比率を高めることなく存在し続けているので、すぐにどうこうというわけではなさそうです。もっとも、まだ日が浅い上に中国は国際データベースにゲノム解析データをほとんど登録してくれないので、詳しいことはよくわからないままです。


予測の条件など

前回と同様です。(詳細: 3週前の人流がデルタ株の増減と最も相関していたという解説)

  • 変異株ごとの前週比
    BA.2の前週比に対してBA.2.12.1は1.4倍、BA.5は2.25倍。現実には曲線になると思われるが、BA.2の前週比1.0倍付近では近似できるとみなしている。
  • 2週前の人流
    1週前×1 + 2週前×3 で、実質1.75週前の人流と前週比を対応させている。12日くらい前をピークにした正規分布のほうがより適切だと思われるが、労力の都合で人流データを週単位でしか取れていないので、苦肉の策。厚労省のアドバイザリーボードの資料または都のモニタリング会議の資料から、繁華街の滞留人口を人力で(!)読み取っている。
  • 3週前の感染者数
    3週前の感染者数によって、2週前の人流が変動するという仕組み。これのおかげで、観測された過去の人流だけでは2週先までが限界になる予測を、二段ばしごのようにさらに先まで伸ばすことができる。以前の予測では感染者数の「最大値が前週比に影響する」としていたが、「週合計が人流に影響する」ほうが現実に即していたので変更した。
  • ワクチン接種
    個人単位では (1-(経過週数/56週))1/4 の曲線で効果が減衰するものとする。都民全員がワクチンと自然免疫を同時に獲得した直後の集団免疫を仮に200%とし、減衰後の 1-(集団免疫/200%)2 だけ前週比が減るものとする。これはワクチンと自然免疫の重なりをひとまとめに扱うための便宜的な近似。また、仮に経過週数が同じなら、対デルタに比べて対オミクロンの効果は80%とする。これらは前週比に与える影響自体は大きいが、週単位で大きく変動するわけではないので、5週予測の精度というよりも、過去の感染の波との整合性に影響している。(大局的な齟齬がなければ、これらの計算式は週単位の予測にはあまり影響しない)
  • 感染による免疫
    発表の3.5倍の感染者数を想定。効果はワクチンと同等とみなす。5週予測に与える影響もワクチンと同様。
  • 入国者数(海外渡航歴のある感染者)
    感染者の絶対数が少ない時期ほど、BA.2の前週比の割にBA.5の前週比が前述の倍率より高くなりやすいので、入国によるかさ増しを想定している。
  • 祝日や連休など
    祝日は休診の影響でいったん感染者数が減り、逆にその後は休診明けのリバウンドと行楽などによる感染増で感染者数が増えるものとする。月曜と金曜の違いや連休日数に応じて、3.5%から35%までの幅で決め打ちしているが、まだ改善の余地がある。


他の予測など

今週は、CATsによる予測が毎日更新されているのみで、内閣府のAI・シミュレーションプロジェクトでは、東京都ではなく全国の予測が1つ公開されていました。(敬称略)

縦軸の感染者数はそれぞれスケールが異なりますが、横軸と予測の色は比較しやすいように時期を揃えてあります。予測が多数ある場合は、楽観と悲観など、代表例のみ紹介しています。日付は原則として予測資料の公開日。より正確には各予測のリンク先を参照してください。

※ 特に断りがない限り、感染者数はいずれも7日平均なので、祝日などによるブレがなければ1日単位の最大値はその1.2-1.5倍くらいになることが多いです。

  • CATs / 三浦瑠麗
    8/29(月) 8/30(火) 8/31(水) 9/01(木) 9/02(金) ※毎日更新されるが、同じURLで記事が上書きされてしまうので、可能な範囲で記録に残してリンクしている。

  • 名古屋工業大学 平田晃正
    ※8/18版は「千葉県の感染者数の東京計上を補正」など。大阪・埼玉・新潟・高知の報道は反映されていないと思われる。公開日は8/18となっているが、実際の掲載日は8/22だった。

  • 筑波大学 倉橋節也

  • 東京大学 大澤幸生
    ※スケールの差が大きいので、グラフを2つに分けた。

  • 慶應義塾大学 栗原聡
    ※8/30に東京都ではなく全国の予測が公開されている。8/30時点の現実の7日平均17万8000人に対して、11月末まで13万人を超える高止まりという内容。

  • 創価大学 畝見達夫

  • 参考: 当予測

  • 参考: 東京大学 仲田泰祐
    ※「今後新規陽性者数がこうだったら」という仮定に基づいて、病床推移などを予測するのが主眼なので、感染者数の予測ではない。ただし、ピークの仮定が「1万人・2万人・3万人」や「第6波の2倍(3万6000人)」などと、結果的に現実(3万2000人)に近い数字が考察されている。


あとがき

BA.5の感染力、重症や死者数、ワクチンの追加接種などの考察は、7月6日版の記事に書いています。

ここに載せていないものも含む各種グラフは、毎日更新しています。