東京の感染者数を5週間ぶん予測した (7月21日版)
※ 7月28日版を公開しました knoa.hatenablog.com
今回から、水曜深夜に厚労省のアドバイザリーボードの資料として、または木曜午後に都のモニタリング会議の資料として、繁華街の人流データが公開されることを頼りに、木曜に更新することにします。
前回の予測
前回7月13日の5週予測のうち、1週目の週平均は予測15060人→現実16216人となりました。
予測日 | -7/04 | -7/11 | -7/18 |
---|---|---|---|
7/06 | 7000 | 18569 | |
7/13 | 15060 | ||
現実 | 3380 | 8054 | 16216 |
今回の予測
前回の予測と大きな差はありませんが、少しだけピークが低くなりました。今週は3連休の影響もあってブレるかもしれませんが、ピークは7月末から8月上旬、週平均で3万1000人、1日単位のピークで3万8000人くらいと見ています。
(追記) 前回との少しの差は、主に4回目接種が加速化していることによります。感染拡大を受けて加速化するのは当然予想できることなので、本来は予測に織り込んでおくべきなのでしょうが、手がかりとすべき指標が乏しくて思案しています。接種の予約状況などが公開されていればいいのですが(笑)。
人流も感染拡大に伴って減っていますが、こちらはもともと織り込み済みです。
ただし、ついに検査の逼迫が報道されるようになりました。7月21日現在での検査数は、少なくとも今年初めに比べれば順調に伸びているように見えますが、頭打ちの懸念は常につきまといます。
入院数も3000を超えて、これまでデルタでも年初のオミクロンでも医療崩壊が報道された、4000床の壁に近づいています。デルタ時と違って、いま医療崩壊を引き起こすボトルネックとなっているのは、重症数よりも入院数です。
予測の条件など
前回と同様です。
他の予測など
今週は7月19日(火)に4つ公開されていました。(敬称略)
(7月22日更新: 東京大学 仲田泰祐 氏による予測を追加。7月19日が公開日となっていますが、手続き上のミスなのか、資料の表紙には7月14日の日付があり、掲載は7月21日だったと思われます)
(7月27日更新: 名古屋工業大学 平田晃正 氏による予測を追加。7月19日が公開日となっていますが、掲載は7月21日だったと思われます。気付くのが遅れました)
※ 特に断りがない限り、感染者数はいずれも7日平均なので、祝日などによるブレがなければ感染ピークの1日単位の最大値はその1.2倍くらいになることが多いです。
社会の空気感・人・移動の基本モデルに基づく感染状況の理解と予測 #5 (慶應義塾大学 栗原聡)
東京都は8月中旬にピークで24万人(楽観)~8月下旬時点でまだピークでなく54万人(悲観)BA5を踏まえたパラメタ変更で、 全国的に更なる感染爆発か?? (東京大学 大澤幸生)
前回(7月05日) 東京都は7月中旬にピークで3000人(楽観)~7月下旬にピークで8000人(悲観)
今回(7月19日) 東京都は8月下旬にピークで30万人(楽観)~8月上旬にピークで70万人(悲観)オミクロン株の新規陽性者推定(東京都) #10 (筑波大学 倉橋節也)
前回(7月05日) 東京都は8月1日時点でまだピークでなく4000人(楽観)~6000人(悲観)
今回(7月19日) 東京都は8月中旬にピークで2万6000人(楽観)~8月29日時点でまだピークでなく4万6000人(悲観)
※人流が現状維持なら8月29日時点で27万人を超えていくという悲観的な推定もあるが、あくまで警鐘目的と思われるBA.5および対策緩和の影響#2(暫定版) (創価大学 畝見達夫)
東京都は7月下旬にピークで2万3000人第7波におけるコロナ対策の選択肢 (東京大学 仲田泰祐)
(※7月27日修正: リンクが正しく張られていなかったのを修正しました)
東京都は8月上旬にピークで2万5000人(楽観)~8月中旬にピークで6万7000人(悲観)
※感染規模を「第6波の2倍」と仮定した上で、まん防の有無や効果など、様々な条件の組み合わせで多くの感染推移を提示しているBA.5系統による陽性者数等のプロジェクション (名古屋工業大学 平田晃正)
(7月31日修正: 7月19日版における推定グラフ中の2つの破線を「楽観」と「悲観」と捉えていましたが、正しくは実線の7日平均に対して1日単位のばらつき範囲を示したものだったので修正しました)
前回(7月11日) 東京都は7月下旬にピークで1万3000人(楽観)~1万8000人(悲観)
前回(7月19日) 東京都は7月下旬にピークで2万0000人
あとがき
BA.5の感染力、重症や死者数、ワクチンの追加接種などの考察や、詳しい予測の条件などは、7月6日版の記事に書いています。
ここに載せていないものも含む各種グラフは、毎日更新しています。
東京の感染者数を5週間ぶん予測した (7月13日版)
※ 7月21日版を公開しました knoa.hatenablog.com
前回の予測
前回7月6日の5週予測のうち、1週目は予測7000人→現実8054人※となりました。(※7月19日修正: 単純ミスで7月6日の感染者数 8341人 と入れ違えていましたが、正しくは 8054人 でした)
予測より現実のほうが上回っていますが、しかし本日時点で「前週比」が予測に反して既に下落傾向にあり、今後は現実のほうが下回っていく可能性が高いと見ています。
今回の予測
8万の予測が4万に、減る? という批判は、まったくその通りで、謹んでうけたまわります。前述の通り、「前週比」が既に下落していることを重視しました。
その前回予測とのズレの主な要因としては、
- 人流の影響が3週遅れではなく2週遅れで早くも現れている可能性
を想定して、予測を見直しています。ブレーキが早めに効き始めているというわけです。前回この条件の違いを想定しなかったのは失態でした。
なお、いまのところ本日までの感染者数に検査飽和などの影響は出ていないか、仮に出ていたとしてもまだ大きな影響ではないとみなしています。
今回の予測であれば、入院などの医療の逼迫はかなり緩和されるとは思いますが、それでも病床の不足が報道される実質的な満床飽和(東京では4000床くらい?)はギリギリの線だと思います。
予測の条件など
前回と同様です。
ただし、3週前の人流ではなく2週前の人流に変更しました。また、繁華街の人流データの完全版が
- 都医学研は6月6日を最後に更新停止中
- 都のモニタリング会議版は7月2日分まで、かつ時間帯別の完全版なし
- 厚労省のアドバイザリーボードは先週開催なし
といった事情で入手できなかったため、前回に比べると精度が落ちています。イギリスでさえ各種報告の頻度を落としているくらいですから、コロナに対する危機意識や実際の危険性がやわらいでいくにつれて、欲しいデータが不足する傾向はやむを得ないのかもしれません。
また、ワクチンの4回目接種が都の全人口に対して直近3週で 0.4% → 1.3% → 3.0% と伸びていて、まだまだ絶対数としては少ないものの、リスクの高い人から接種しているわけなので、医療に対する負荷軽減という意味では数字以上に影響があると思われます。これが今後加速するのかどうかの予測は難しく、いまのところ単純に直近の増加分をそのまま延長しているだけです。(当面は加速していく可能性のほうが高い気はしていますが)
他の予測など
今週は1つだけ更新されていました。(敬称略)
※ 特に断りがない限り、感染者数はいずれも7日平均なので、祝日などによるブレがなければ感染ピークの1日単位の最大値はその1.2倍くらいになることが多いです。
- 新規変異株による陽性者数および死者数のプロジェクション #2 (名古屋工業大学 平田晃正)
(※7月20日修正: リンクが正しく張られていなかったのを修正しました)
前回(7月05日) 東京都は8月下旬にピークで6000人(楽観)~1万4000人(悲観)
今回(7月11日) 東京都は7月下旬にピークで1万3000人(楽観)~1万8000人(悲観)
東京の感染者数を5週間ぶん予測した (7月6日版)
※ 7月13日版を公開しました knoa.hatenablog.com
東京の感染者数を5週間ぶん予測するのをやめた (3月24日版) あと、しばらく様子をうかがっていましたが、再開を試みます。
今回の予測
(更新: 部分拡大グラフを追加しました。数値に変更はありません)
1日8万人とか、そんなことある? という感想は、わたしも抱いています。1ヶ月後に笑い話になっていれば、謹んで辱めを受けたいと思います。しかしワクチンの減衰や自然免疫の程度など、どの条件をいじっても、7月末から8月上旬ごろに6-8万くらいのピークが来てしまいました。もっとも、3-4月にかけて増えていたBA.2のピークはもっと大きくなると悲観的な予測をして外していますから、今回も未知の要因を考慮し損ねていたり、既知の要因を過大・過小評価している可能性はあります。
なお、いちおう都は検査数について「最大約29万件/日の体制を確保」と謳っているようですが、これまでも都が事前の目標を達成したことはないので、おそらく1日8万人の感染者はとても検査できないでしょう。
なんでそんなに増えるわけ?
BA.5の感染力が8割、人流増加による感染拡大の下支えが2割と言ったところです。ワクチン効果の減衰は確かにありますが、今も追加で接種する人がいるので、都民全体の集団免疫力が急落しているわけではありません。また、東京以外でも、島根のようにBA.5が持ち込まれれば、どの地域でも同様の感染爆発は避けられません。
下記散布図の●黄色い点に注目してください。BA.5の前週比は、かなりバラツキがあるものの、「横軸BA.2の前週比が1.0倍なら、縦軸BA.5の前週比は2.0-3.0倍になる」という関係が見てとれます。目下のところ、東京をはじめとした多くの地域でBA.2の前週比は0.8-1.0倍(■赤領域)と推定されるので、このまま環境が変わらなければ、BA.5は毎週1.5-3.0倍くらいの勢いで増えていくはずです。
ワクチンは急には大量接種できないので、BA.5の急増を食い止めるのは人流と自然免疫です。しかし、いまの世情的に緊急事態宣言はおろか、まん防さえ、少なくとも予防的なタイミングで実施されることはないように思います。感染拡大に伴って「自然と」外出を自粛する力は働きますが、あくまで後追いなので予防的な効果はありません。最後に頼りになるのが自然免疫ですが、当たり前ですが、これは感染してこそ得られる免疫です。
現時点でBA.5を減らしている貴重な先行事例のポルトガルは、東京より少ない1000万の人口に対して昨年末から28週連続で毎週5万人以上、期間の累計で400万人という感染者を出しているため、少なくとも自然免疫の面で東京とはまったく条件が異なります。
重症や死者数は?
ワクチンの効果は感染→発症→入院→重症→死亡と重くなるものほど効果が持続するので、特に重症についてはかなり抑えられるのではないかと期待しています。ただ死亡については、特に高齢者ほど、感染者の絶対数が増えると必然的に増えてしまうので、年初に比べて少なくなるとは限らないでしょう。また、入院に対してもワクチンが効果を保ってくれているはずですが、少なくともイギリスでは直近で入院率が上がっているという報告があり、感染者数の分母も大きく増えることを想定すれば、実質的な満床飽和(東京では4000床くらい?)は避けられないように思います。
個人的には「今後は、医療崩壊さえ避けられるなら、行動制限に頼らなくてもよい」と考えてきましたが、実現可能性は別にして、ピークをやわらげるために7月中に短期間の行動制限が必要だと感じています。(長期間にしないのは、感染力が強いので結局は自然免疫による全員感染に頼らざるをえず、行動制限は永遠には続けられないと考えるためです)
また、「たとえインフルエンザ程度だとしても、都民が全員寝込んだら社会が止まる問題」が、1-2月以上に問題になるでしょう。無症状なら働いてもらうくらいのことはやれなくもないでしょうが、そもそも都の感染者数として表に出てくる人数のうち無症状なのは全体の1割以下なので、焼け石に水です。鼻水程度なら働いてもらうのか、いくらか社会を止めるしかないのか、韓国や台湾に学ぶ必要があるかもしれません。
できることは?
3回目接種がまだの人は、いつか接種するつもりがあるなら、今がその時です。感染者数の上り坂から下りまで、全期間守ってもらえます。山頂や下り坂で接種するのは、本来めちゃくちゃもったいないことです。これは、ピークが1万人になろうが、8万人になろうが、同じことです。ピークより前に打つのです。
4回目が接種できる人も、同じ理屈で、今打つべきです。むしろ、これは政府にこそ言いたいのですが、接種サイクルの目先の効率性を大事にして「前回接種からきっちり5ヵ月待ってもらう」よりも、1ヵ月前倒ししてでも感染の上り坂で接種してもらった方が、個人のリスクとしても医療全体の負荷としても、圧倒的に効率的です。逆に、もし今後、幸運にもしばらく感染が落ち着く時期が来たならば、たとえ5ヶ月経ってワクチン効果が減衰してしまったとしても、次なる感染拡大の兆候が現れるまでは、6ヶ月だろうが7ヶ月だろうが待ってもらうべきです。そして、いざというときに短期間で大量に接種できる体制こそ、整えておくべきかと思います。
予測の条件など
考慮されている条件は基本的にはかつての予測と同じです。(詳細: 3週前の人流がデルタ株の増減と最も相関していたという解説)
- 変異株ごとの前週比
- 3週前の人流
- 4週前の感染者数
- ワクチン接種
- 感染による自然免疫
今回はこれらに加えて
- 入国者数(海外渡航歴のある感染者)
を考慮しています。ただし、国内の感染者数が少なく、入国分の影響が大きいときに限ります。
今回なぜ予測を再開できたかというと、
などの予測を難しくさせる時期を終えて、比較的安定した数週間のデータが得られたことと、
- 海外の先行したBA.5データの蓄積
のおかげです。
他の予測など
ちょうど7月5日に感染者数の予測が3つ公開されていたので紹介しておきます。(敬称略)
(7月19日更新: 筑波大学 倉橋節也 氏による予測を追加。7月5日が公開日となっていますが、手続き上のミスなのか、掲載は7月11日だったと思われます)
※ 特に断りがない限り、感染者数はいずれも7日平均なので、祝日などによるブレがなければ感染ピークの1日単位の最大値はその1.2倍くらいになることが多いです。
47都道府県における病床見通し #3 (東京大学 仲田泰祐)
東京都は8月上旬にピークで1万人(楽観)~3万人(悲観)
※病床数が主眼の分析で、感染規模は仮定しているだけ新規変異株による陽性者数および死者数のプロジェクション (名古屋工業大学 平田晃正)
東京都は8月下旬にピークで6000人(楽観)~1万4000人(悲観)都市間移動を考慮したモデルの検討 (東京大学 大澤幸生)
東京都は7月中旬にピークで3000人(楽観)~7月下旬にピークで8000人(悲観)オミクロン株の新規陽性者推定(東京都) #9 (筑波大学 倉橋節也)
東京都は8月1日時点で4000人(楽観)~6000人(悲観)
※予測は8月1日までで、ピークはまだ先
あとがき
引き続き増田で書けなくもなかったのですが、グラフ描画などを実現していた方法が使えなくなったので、こちらにしました。
今後、以前のように毎週更新するかは、未定です。(ここに載せていないものも含む各種グラフは、毎日更新しています)
ワクチン、人流、変異株。
(6月23日: 各グラフを新しいものに差し替えました)
ワクチンは、ちゃんと効く。
都民のワクチン3回接種率はおよそ6割。2回接種で96%も効果があった対デルタには劣りますが、それでも対オミクロン感染に84%の効果があります。
入院においては効果がさらに顕著で、全員ワクチン未接種なら2000人に対して100人が入院するような状況を、全員3回接種済みなら、なんと3人にまで抑えてくれます。
※ 東京での今年3月の実測で感染に対して84%の効果。また、2回接種後に減衰した効果も平均して37%残っている。
また、カタールの報告では自然免疫もワクチンと同等の効果を示しています。高齢者から接種しているワクチンとは逆に、若い世代ほど自然免疫を広く獲得していると言えます。
実際には、ワクチンの効果は接種後に減衰していきます。ただし入院、重症、死亡など重いものに対してほど効果は持続しやすいので、社会全体としての医療への負荷はやわらげられます。
人流が関係ない、わけがない。
感染者のあなたが誰かと会食して、相手を感染させてしまったとしましょう。もしその場にあと2人いたとしたら、その2人は感染を免れたでしょうか?
平均して1000人が900人に感染させていた環境を、1000人が1100人に感染させる環境へ変えるのは、とても簡単なことです。人々の接触機会を少し増やすだけでいい。その逆もまたしかりです。
にもかかわらず、人流を少しずつ増やしながらも感染者を大きく減らすことができていたのは、やはりワクチンのおかげです。なにしろ、あれから6割もの都民が3回目のワクチンを接種したんですよ?
※ 人流と感染の関係については、都医学研の報告や当増田出張所の記事がある。
※ 連休などによる人流増加と休診明けの反動は、あくまで一時的な増加圧力に過ぎず、継続するわけではない。
※ もちろん人流は指標のひとつに過ぎず、マスク着用や換気などの感染対策、人々の行動が広く影響する。
新しい変異株は、増えやすい。
古い変異株が増えていようと減っていようと、新しい変異株はかまわず増え続けることができます。実際、東京での4月の一時的なリバウンドは、BA.1 が一貫して減少していたにもかかわらず、BA.2 の増加によってもたらされています。
BA.2 と BA.1.1 (日本で主流だった BA.1 の系統) の関係は、だいたい「BA.1.1 が前週比1.0倍なら、BA.2 は1.8倍」くらいの関係でした。
そんな強力な BA.2 さえもその後に減らすことができたのは、ワクチン接種が強力に進められてきたおかげだと言えます。特に、人数的に感染の主力となっている若い世代は、3月から4月にかけて接種が進みました。
今後はオミクロンチルドレンの中で最も感染力が高い BA.5 が増えていくと思われますが、1月に比べれば都民の集団免疫力もずっと増していることから、感染規模も医療負荷も、過去を上回ることはないでしょう。
※ BA.2.12.1 も BA.4 も BA.5 も、重症化率やそれに対するワクチンの効果などは、これまでのオミクロンと変わらないと考えられている。
オミクロンチルドレンが大きく増えた先行事例は BA.2.12.1 がアメリカ、BA.4 が南アフリカ、BA.5 がポルトガルくらいしかないのですが、いずれも相対的には感染爆発というレベルには至っていないのが安心材料です。ただし、日本も含めてこれまで BA.2 を減らし続けていた国々で、感染者数が増加に転じる要因とはなっています。
確かに、感染者数の増減は、「ワクチン・人流・変異株」という三大要素を同時に考慮しないといけないことが、話をややこしくしています。しかし、ややこしいという前提さえ知っていれば、不思議もいくらか軽減されるのではないでしょうか。
そしてくれぐれも、三大要素が影響を与えるのは感染者の絶対数じゃなくて、増減比です。感染者が1000人か1万人かではなく、前週比が0.8倍か1.5倍か、ということです。誤解されませんように。
ワクチンの副反応を年齢別にグラフ化した
子供へのワクチン接種は社会全体としてのメリットがある一方で、子供自身にとっては他の世代に比べた症状の軽さから副反応などのデメリットに見合わないとする考えもある。
じゃあ、子供の副反応ってどのくらいなの?
ということで、厚労省による日本国民向けの案内がこちら。
小児(5~11歳)の接種にはどのような副反応がありますか。|新型コロナワクチンQ&A|厚生労働省
簡潔にまとめられているいっぽうで、もともと存在している詳しいデータがごっそり削られているとも言える。
そこで、親の立場での実体験と比較しやすい形でグラフにまとめたので、参考にしてもらいたい。(親の実体験を元に判断するのが適切かどうかという問題はあるが、現実的に判断に影響を与えていると思われる)
赤みと腫れを除けば、概して■子世代の症状率は、■親世代に比べて少ないと言える。
元データ: Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine Reactions & Adverse Events | CDC
※ 5-11歳が接種する有効成分の量は12歳以上の1/3。
※ モデルナは年齢区分が違うし、18歳未満はデータがないので今回は除外した。
※ 3回目接種の副反応については、厚労省の見解は「(2回目と)概ね同様」。
以下は2022年5月21日現在の参考資料である。
ワクチン接種は各世代で進行中だが、■5-11歳の伸びは鈍い。
元データ: ワクチン接種実績 東京都福祉保健局
10歳未満は現時点までに世代人口の17%、6人に1人が■オミクロンに感染済みとなっている。
3週前の人流がデルタ株の増減と最も相関していたという解説
まずこちらの散布図をご覧ください。これを見ても特に興味が湧かなかった人は、この先を読んでもたぶんおもしろくないです。これから、どうやってこの図にたどり着くかを解説していきます。
人流と感染者数の正しい見方
緊急事態宣言やまん防などについて、効果が出ているかどうか、一般のニュース番組などでサラッと触れるだけの場合、次のような図が示されることがあります。しかしこれははなはだ不親切と言わざるを得ません。むしろこんな図を見せられてもふつうは効果が出ているのかピンと来ないので、「緊急事態宣言に意味はない」などとする論説を勢いづかせてしまいます。
最低限、図示にあたって必要なのは人流です。ここでは、LocationMind xPop の提供による、都内の主要繁華街の人流データを使いました。
下記の図を見れば、少なくとも政府による行動制限が人流に影響を及ぼしていることは明らかでしょう。その上で、人流を減らすことが感染者数の抑制にどれだけ寄与しているのかを、ここから少しずつ浮き彫りにしていきます。
※ お盆と年末年始の人流は、都民は帰省などで移動しているはずだが、繁華街の人流データには反映されないので、不整合を避けるために空白としている。
まず、感染者数そのものの替わりに、感染者数の前週比を示します。専門家会議などの資料や、少ししっかりした報道番組なら、ここまで掘り下げることもめずらしくないでしょう。しかし見るべき指標という意味では正しいのですが、まだ不足です。
※ 場合によっては前週比の替わりに実効再生産数になることもありますが、右の目盛りが変わるだけで、実質的にはまったく同じこと。
まったく同じ人流でも、アルファなら減らせるけどデルタは増えてしまうといったことがありえますから、人流に対する前週比は必ず変異株ごとに見なければなりません。ひとつ前のグラフを灰色で示していますが、7月の段階ではアルファを含んだ感染者数全体より、デルタだけの前週比はずっと高かったですし、年明けのオミクロンの爆発に比べれば、デルタ自身の増加比はそこまで大きくはありませんでした。
※ 誤差が大きくなるのを避けるため、デルタ株が全体の10%以上を占めていた時期のみ。
さらに、ワクチンの効果を考慮しなければなりません。青色がワクチンが「なかった場合」の前週比で、ワクチンのおかげで現実には灰色のレベルまで前週比を下げ続けてきたということになります。
ちなみにデルタ当時は、従来株に比べてワクチンの効果が劣ると言われていましたが、結果的には非常に高い効果をもたらしていたことが、感染が下火になった後になってわかってきました。まだ当時は欧米の接種後数ヶ月を経たことによる効果の低下と、デルタに対する効果の低下が区別されていなかったせいで、誤った理解がされていたのかと推察しています。そして、この誤った情報と実際の高い効果の差が、いわゆる「ファクターX」の大部分を占めていたと考えています。
さて、感染を防いでくれるのは、ワクチンだけでなく、感染による自然免疫もあります。特に、デルタはかなりの規模で感染が広まりましたし、検査して感染者として発表された人だけでなく、気付かずに感染して無症状のまま免疫だけを獲得した人がその何倍もいると推定されます。ここでは、日本の従来株時の調査で報告された「発表された感染者数の4倍」という想定で、ワクチンと同様に自然免疫の効果を差し引きます。全体に与える影響はワクチンより小さいですが、無視してよいほどでもありません。
※ 感染から2週間で、自然免疫がワクチン2回接種と同等の効果を持つと想定。デルタ時の自然免疫の効果は85%というアメリカの報告がある。
※ 日本の従来株時で実際の感染者が発表の4倍という倍率は、デルタ時にどうなっているかはまだ不明。ワクチンの普及のおかげで無症状のまま気付かないひとが増えている可能性はある。アメリカではデルタ時に4倍という推計があるが、国が違うことは大いに考慮されるべき。※ 2月17日追記: 日本のデルタ時の速報で、実際の感染者(抗体保有者)と発表の感染者がほとんど変わらないという調査結果が出た。さすがに従来株時の調査とも空港検疫の無症状率とも海外の推計とも矛盾が大きく、速報の「留意点」としても、抗体を十分に獲得できない感染者もいることや、抗体が長期的に減衰することが付記されている。
ここまでやって初めて、人流と前週比の関係を正しく見比べることができます。赤丸で示した人流が、少し右にずれて青丸の前週比と連動している様子がつかめてきたでしょうか。
いよいよ散布図です。まずはデルタの前週比を、1, 2, 3, 4週前の人流とそれぞれ比較してみましょう。どれもある程度の相関はありそうですが、特に3週前がきれいに相関しているように見えます。(人流も感染者の増減も連続的に変化しますから、3週前が相関していれば2週前や4週前もそれなりに相関します)
※ いちばん左に伸びている人流の最低点は、8月16-22日の微妙にお盆とかぶっている週なので、本来はもう少しだけ右側にスライドした位置を想定すべきと思われる。
基本的にはここで終わってもよいのですが、さらに精度を高めるかもしれない補正を紹介しておきます。
それは「祝日のあった週の翌週は、前週比が大きくなる」という経験則に基づく補正です。医療機関の休診の影響で翌週にしわ寄せが出ているとか、単純に休日が感染機会を生んでいるのかもしれません(翌週すぐ現れるので3週のズレとはまた別の機序か)。本来は祝日の曜日別に数年分のデータで統計を取りたいところですが、そんなデータはないので、ひとまず「祝日の日数 × (1/7) だけ前週比が増している」と仮定して、その分を差し引きます。結果、少しだけ目立っていた上方向の突起が、きれいにへこみました。
※ (1/7)という補正値は現時点では恣意的だが、データさえ蓄積されれば統計的に値を決めて反映できる、統一的な操作だという点が大切。また、お盆の週はカレンダー通りに加えて2日分、年末年始は3日分を加算しているが、この加算量についても同様。
このようにして、「3週前の人流」がデルタ株の増減に最も相関していたことを可視化できました。同様の手法で、LocationMind xPop の提供による繁華街ではなく、Agoop の提供による新宿の人流を元にした図も示しておきます。こちらは全国多数の観測地点が用意されている中で、人力の限界と代表性の観点から新宿を選んでデータ化しているだけなので、より多くの地点のデータを元にすれば、さらに精度は高まるものと思います。
人流こそが悪なのか?
いったん脱線します。ここまで長々と、人流が感染の増減をもたらしていることを浮き彫りにしてきましたが、ことさら人流が悪であると言いたくない気持ちもあります。あくまで 悪いのは感染なのです。
本来であれば、人流抑制に頼らない感染対策があればよいのですが、幸いにも日本人はマスクは既に着用していますし、徹底した黙食を大人に強いることは現実的ではないと考えられているため、やむなく根元の人流から断つしかないというのが実情だと思います。
しかし、たとえば変異株が少しずつ世代間隔を短くしてきたことも活かして、徹底した本気の黙食3日間キャンペーンを打ってみるなど、ワクチンや人流抑制に頼らない方法がもっと模索されてもよいとも感じます。何ヶ月も続ける行動抑制より、費用対効果はよほど高い気がしますが、都民や国民の心をひとつにするには、隕石やゴジラが来襲しないと難しいでしょうか?
3週遅れる理由
さて話を戻して、どうして人流に対して3週も遅れるのか考察しておきます。
まず、感染から報道発表までは、少なくともデルタにおいておおむね7日間の遅延があります。また、感染者同士の発症間隔は平均して4日、発症から診断までの平均は2日と推定されていますから、次のような時系列が考えられます。
0日 感染
+4日 発症まで
+6日 診断まで
+7日 報道発表まで
+11日 2次感染の報道発表まで
+15日 3次感染の報道発表まで
+19日 4次感染の報道発表まで
それに加えて、下記のような事情が考慮されるべきです。
- 週の区切りを「日曜までの7日間」としている影響
- そもそも感染のきっかけとなる人流が週末に偏っている可能性
- 検査は週末に少なく月曜に多いことで、感染発表が火曜以降に偏る
- 最初の人流をきっかけにした感染から何日も遅れて発生する、家庭内や施設内の2次・3次感染の影響
- あくまで3週目に最も相関するだけで、最速の影響は1週後から出はじめて、3週目に最大となるだけ
とは言え、機序の解明も興味深いことではありますが、「3週前の人流と相関するのは偶然の一致で、もっと長期的に見ていけば、散布図はバラバラになっていくはずだ」ということでもない限り、感染者数を予測する上では、結果だけを活用することができます。もっとも、オミクロンに対しても同じ結果が得られるかは、引き続き検証が必要です。
考えられる誤差
「本来描かれるべき真の散布図」に対して、バラツキを大きくさせてしまう要因を列挙しておきます。
- 検査飽和の誤差: 8月ごろの検査数が限界を迎えていたことで、感染者数や前週比がピーク前は過小に、ピーク後は過大になっています。ただし、大きく見積もっても20-30%程度のズレではないかと思います。
- 変異株比率の誤差: 感染者数全体に対するデルタの比率は、統計上の標本誤差を避けられません。仮に、統計的に理想的なスクリーニングができていないとすれば、誤差はさらに大きくなります。
- 人流測定地点の限界: ここで用いた人流は、都内7箇所の繁華街や、新宿だけのものです。より幅広いデータを正しく用いれば、より実態に近づくはずです。
- 人流読み取りの限界: 人流は公開されたグラフを人力で読み取っています。あってもせいぜい1-2%だと思っていますが、ブレはあるかもしれません。
- 人流データの正しさの限界: いずれの公開データも、あくまでGPSなどを元にした推計値ですから、真の値とは言えませんし、実際、後日修正されることもあります。
- 感染者数が少ないときの誤差: 10-12月にかけては特に絶対数としての感染者数が少なく、クラスター発生の偶然などで前週比がブレやすくなっています。
- 年代別の感染者数、接種率による精度: 感染者数や接種率は年代ごとに推移が異なるので、本来はそれらを分けて分析した方が精度が高まると思われます。
感染者数の最大値の影響 (都民のびっくり度合い)
ついでに、5週予測で用いている、感染者数の最大値についても触れておきます。すなわち、「感染者数が多いと都民がびっくりして、人流を減らすなどの影響を経て、最終的に感染者数の前週比を減らす」というものです。心理的影響を数値としてくみ取っている割には、大きな流れをつかむくらいには十分役立つと言えます。
なお、ここまで見てきた人流や感染者数との関係は、基本的には「従来株時の都医学研の研究が、デルタでも(ワクチンなどの追加要素を考慮すれば)当てはまりました」という結論になります。
デルタとオミクロンの前週比の関係
最後に、デルタの前週比が予測できれば、それに基づいた二段ばしごとはなりますが、オミクロンの前週比も推定できます。これには、貴重な先行事例となった海外のデータが役に立ちました。
※ 詳細は割愛しますが、右肩上がりの曲線上に並ぶはずだと推定できるということです。
ちなみに、日本でのオミクロンのデータが蓄積されるにつれて、オミクロンと人流についての散布図も少しずつ描けるようになってきていますが、今回のオミクロンの検査飽和の程度はデルタ時よりずっと深刻なので、前週比に基づく予測を極めて難しくさせています。
参照
- 繁華街の人流データ: 都内主要繁華街における滞留人口モニタリング
- 新宿の人流データ: 新型コロナウイルス拡散における人流変化の解析
- 東京の感染者数を5週間ぶん予測した (2月15日版)